京西清談は、私が東京の世田谷に住んでいるからと、気持ちが癒される、あるいは、”ほっ”とする話題を提供したいからです。
 
絵師、村林由貴の肉声で「退蔵院方丈襖絵プロジェクト」の解説を聞くことができます。

絵師、村林由貴の肉声で「退蔵院方丈襖絵プロジェクト」の解説を聞くことができます。

「ON THE TRIP」のオーディオガイド「退蔵院方丈襖絵プロジェクト村林由貴が招く禅の世界」は村林さん自身が解説しています。村林さんの肉声を聞くことができます。村林さんに興味ある方は、是非、聴いて欲しいです。

https://on-the-trip.com/guides/546/

「ON THE TRIP」は、神社やお寺などの文化財、各地の絶景や芸術祭、禅や寿司などのカルチャーまで、さまざまな旅先の理解をその場で深めるトラベルガイドアプリです。このアプリはApp Storeからダウンロードできます。

日本の文化財にはたくさんの物語がある一方、訪れた観光客にその物語を伝えきれていないとして、「ON THE TRIP」は、各文化財と提携して、スマホにより5か国語の音声でその土地に根付く物語を伝える活動をしています。

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絵師、村林由貴を知っている人は非常に限られています。しかし、彼女は400年後においても“知る人ぞ知る”となる人です。

その理由を申しあげます。京都の妙心寺の塔頭の一つである退蔵院の方丈(本堂)に桃山時代後期の狩野派の絵師・狩野了慶による襖絵がありましたが、400年経ち老朽化が著しくなったため修復するか、新たに襖絵を作成するかの判断が必要となりました。退蔵院の副住職、松山大耕さんは、伝統工芸品の継承の必要性、伝統の上にたったアートの重要性から修復ではなく新たに襖絵を作成する方を選択しました。

その選択の下にスタートしたのが退蔵院方丈襖絵プロジェクトです。プロジェクトで選ばれた絵師が村林由貴さんです。大事な点は、襖絵がこれから先400年保つように最高級の伝統工芸品(越前和紙や奈良の墨等)を調達したことです。さらに調達した伝統工芸品の仕様も細かく書き留めたそうです。副住職、松山大耕さんによると村林由貴さんには襖絵のテーマだけを指示し構図については一切指示しなかったそうです。退蔵院は宮本武蔵と縁があることから武蔵の五輪書をテーマにしたそうです。

村林由貴さんはお寺に住み込み、禅の修行を経験しながら構図の構想を練り、数えきれないほどの下書きを残したそうです。76面の襖絵を書き始めてから完成までに11年かかりました。

生成AIの時代におけるアートについて私見を申しあげます。副住職、松山大耕さんからAIが作成したゴッホの作風の渋谷の風景の絵を紹介されました。確かにゴッホが描いたような絵ですが、素人の私でも本物でないことは瞬時にわかりました。この分野でのAIはまだ発展途上ですが、今後さらに進化していくでしょう。そのような状況で「アートとは何か?」について考えさせられました。アートとは言葉では言い表せないことを言い表すものと考えます。更にアートは人間の歴史と密接に関わっています。古代から現代まで、人々は自分たちの文化や社会や信仰や価値観などをアートは体現しています。そう考えると76面の襖絵という作品のみならず、寺に住み込み、禅の修行を経験しながら構図の構想を練り、数えきれないほどの下書きを残したというプロセスを我々が共有できることがアートの意味であると考えます。

退蔵院では通常非公開の退蔵院方丈襖絵も季節限定の特別拝観を実施するようです。京都に行く機会のある方は退蔵院のホームページを確認することを勧めます。

追記 今年の初め村林さんと連絡を取る機会がありました。その時、体調がすぐれないと言っていました。後日ですが、村林さんは30歳代半ばで旅立たれました。合掌!

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